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「……わかった。じゃあ…」
 ティナの言う通りにそばへとゆっくり近づく。めまいがするような殺し文句のあと、彼女はじっと見つめてくるばかりだ。
 白い額に唇を寄せると僕の喉にティナの鼻がぴと、と当たる。伝わる体温に恥ずかしさ以外の感覚が込み上げる。うなじを、肩を、鎖骨を撫でて迷い、時間は待ってくれないと思い直して服越しの胸に触れる。先端あたりをさりさりと擦るとティナが声を上げ始めた。
「…ん、…んっ…」
 どう脱がすかと考え、上から捲ってみる。

「わっ……こういう作りなんだ」
 ぺろんとブラカップごと捲れてしまい、目の前に乳房がぷるんと現れる。照れ隠しに口を動かすとティナは音を立てずに笑った。羞恥を含んだ笑みに唾を飲み込み、そっと胸のふくらみに触る。いつもながら感動するほど白く柔らかい。
「…っ」
 人差し指でまだ柔らかい乳首をふにふにと摩ると、ティナが身を縮め小さく声を上げる。
「あっ、あ…!」
 つんと尖りだしたそれを指でぴとぴと押しては離す。
「ひ、ん…っ」
 快感を主張しているそれをくにくにと指の腹で転がす。
「ん……! あ、あっ…たまくんっ、や、やぁ…」
 指に合わせ我慢するように、ティナの体にぎゅっと力が入る。胸を責められ僕の名前を呼び、眉は快感に歪む。それは自分でするとき頭に浮かべる図のひとつだった。
 落ち着けと心に念じ、キスして胸への愛撫を続ける。

「…声止まらないんだね」
「だって、あ…」
 ティナが喘ぐと唇と唇が擦れてぴり、と痛む。かまわず舌を絡めながら両胸の先を軽く潰すようにつまむと、たまらずティナが唇を離した。
「あ、んやぁっ……!」
「痛かった?」
「ううん、…たまくんのゆびが、っあ…、あ、だめ…ん、や……」

 何だろう。今までよりも、今までで一番くらい声がいやらしい。考えているとまた勃っている僕のものにティナの指が触れる。
「ティナがかわいいから」
「……ふ、」
 笑ってくれると嬉しい。でも触って下着から出そうとするのはちょっと困る。
「ん、あっ、ティナ…もう! ……なら、こうしても文句言わないでよ」
 ショートパンツの隙間へ性器を挿しこみ、かるく擦り付けたり怖がらせない程度に優しく突く。さらさらとした生地が粘膜に擦れる。その向こうの温かくやわらかな感触。
「や、や、こすれて…あ……!」
「っ……かけちゃうかも」
「着替えあるし、いいよ…車で帰るだけだから。かけても、なにしても、いいの…」

 黙ってショートパンツを脚から抜き取る。
 下着に秘部のかたちが浮き出るくらいに濡れている。思うさま擦り付ける。
「ティナ、…ん、あっ…」
「ん……んっ、やぁ…あ、ぁ…!」
 ベッドにごろんと転がり、抱きあってキスしながら擦り付けあう。熱い。気持ちいい。幸せだ。このまま続けたらもっと。
 限界がくる前に身体を離そうとすると、ティナの手のひらがひたりと吸いつき、指で輪っかをつくり性器をしごく。
「ダメだって、ホントにかかっちゃ…あ、あっ……!」
「あ、んっ……あったかい…」
「あったかいって…、い、ちいちっ…やらしいんだけど…っ!」
 漏れ出た本音と熱い粘液がぴしゃぴしゃと降りかかり、ティナの濡れた下着がさらに汚れる。それを見て満足げにふふ、とティナが微笑む。僕がいくといつも彼女は嬉しそうに笑う。複雑だが褒められているみたいでくすぐったい。

「……、っはぁ………」
 精をふき取りながらため息をつく。こうも早いと、『ティナが好き』という感情の暴走で射精している気がしてくる。
 行為を始めた当初は、早いことを気にしてあまり触らせないようにしていた。最近はもう、挿入はまだ先だろうしティナにいかされるのも悪くないという境地だ。

 それにしても、今日は何か違う気がする。女性は周期的に性欲が増すと聞いたことがあるが、彼女もそういうことがあるのだろうか。
「何か、いつもと違うね。……今日はそういう気分なの?」
「……わからないっ…」
「もっと触らないとわからないかな」
 くす、と意地悪く笑ってみるとティナは息を呑む。

「僕も」
 真正面からじっと顔を見る。
「今日、ずっとキスしたくて」
 画面越しでない彼女を、視線を気にして堂々と見つめられなかったぶんを、今。
 ティナは杭でも打ち込もうかと言うほど注がれる視線にたじろぐ。太ももをなぞる指に気づいてびくりとし、その隙にキスすると気のせいでなく腰がくねった。
「…っあ、あん、だめ、やぁあ……っ!」
「ダメじゃないでしょ、して欲しかったんだよね」
「く、ふ、うぅん…!」
 キスしながら両胸をさすり揉む。快感を紛らわすように、もっととねだるように腰が左右に小さく跳ねる。
 見ていると腰がじんじんして自分も前後に振れそうになる。苦しさがたまらなく気持ちいい。ずっと味わっていたい、やっぱりいたくない焦ったさだ。今日はどこまでできるだろう、期待はできない。白い太ももが目に毒で視線を上に戻す。

「ここに座って」
 胡座をかいて指し示すと、すでに瞳をとろんとさせたティナは素直に腰を下ろす。これでティナの顔が正面に来る。首を傾けてちゅっと谷間に吸い付くと高く声が上がった。
 反射的に浮くティナの腰に、離れられないよう腕を回す。
「……胸、好きだよね。もっとしてあげる」
 また唇を吸いながら手のひらで包んだ胸を捏ね、中心を指の腹でごく弱くさする。
「ん、ん、ふぁ、あっ…んぅ、っあ!」
 ティナの膝が震え出し、良い反応に楽しくなってくる。
「っぷは、気持ちいいんだよね」
 唇を胸に寄せ、片方ずつ交互に舐める。何度か繰り返すとティナの腰が小さく跳ねはじめる。 
「やめ、や、めっ……ん、やぁあっ……!」
「我慢しないで。腰動かしていいよ…んっ」
 言い終わる前に、自分からぴたりと僕の腰にすり寄ってくる。
 これ僕のほうが持たないかも。負けん気に火がつき、乳首を口に含み転がすとさらに声は高くなっていく。

「やあぁ、あ、あっ、きもちいいの……っ」
「……っ」
 思わず顔を上げて見てしまった、腰に響く表情と声をどうにかやり過ごす。
 吸うほど熱く柔らかくなる両胸をすくいあげ、揉みながら乳首をこねる。そこから発せられるミルクのような甘い匂いにくらくらしながら、小さな乳輪をきつく吸い立てる。
「ひ、あ…っ! すわないで…っ!」
「…ん…吸うのがダメなら……」
 溶けかけたソフトクリームを舐めるように、胸の外周から中心にむかって舐め上げる。乳首のまわりをくるりと舐め、位置をずらしまた外側から繰り返す。
「あ、…っ! ……あっ、…や…!」
 乳首に舌がたどり着くたびにティナの腰がくいと押し付けられ、どっちが責められているのかわからなくなる。
「う、んっ……! あっ、あ、あぁ! それもやぁ……!」
「わがままだなあ。なら……」
 食べ進めて柔らかくなったアイスをぱくりとするようにかぶりつく。じゅ、と色素の薄い乳輪ごと口に含む。
「……っ! …っ、ひあぁあ…!」
 吸いついた口の中で乳首を舐めまわす。もう片方は指でつまみ、柔く押し潰す。
 アイスというよりホイップクリームだと思いながら、つんと尖る乳首以外は甘くとろける乳房を吸い上げる。
「あ、あっ、や、だめ、だめぇっ、……っ! ぃ、いっ…やぁ……!」
 耳に滑り込む悲鳴にぞくぞくと頭の奥が痺れる。触れる肌はほてり、腰がびくんと跳ねる。何度も見たことがある反応。

「………ちょっといい?」
 糸引く下着にティナが気づいて赤面する前に、手を差し入れる。そこは慣らす必要がないほど濡れ、指を飲み込む。奥へ進めて確かめると熱くうねり断続的に締め付けてくる。
「いったの? …胸で……?」
「やっ…指…っ!」
「…もしかして、何回かある?」
「……っ…」
「いつ?」
 指を抜き、顔の前に持ってきて見せつける。息を呑むティナの胸の先をその指でぬるぬるといたぶる。
「ひゃうっ……! ま、前に通話したとき…っぁ!」
「前……見せてって言ったとき?」
「ん…、や、だぁ…!」
「教えて」


 離れている間、僕らは時々通話した。
 最初の一年は僕からこわごわかけていた。
 それが、特に留学を終え帰国した後は、電話もビデオ通話もティナの方からかけてくれる頻度が増えた。相手の姿が見えれば望むことも増える。
 処女開発の過程で性的な会話もするようになり……といっても裸になったりきわどいポーズを取らせたりなんてことは考えもしなかった。寝る前に好きだよとか言い合う、付き合いたてのカップルのような可愛いものだったのだ。

 ある晩、彼女の顔を見ていたくて会話を長引かせていた。
 シフトを代わった礼にとバイト先で貰った酒を飲んでいて、あの時は少し酔っていた。

『…ティナ、キスしたい』
『ん、私も』
『キスして、胸……をいじめたい』
 なぜ急に胸が出てくるのが自分でも不思議だった。言ってしまってから恥ずかしくなって画面から顔を背ける。そこをいじられている彼女の表情が可愛くて印象に残っているからだろう。
『わ、たしも…』
 目線を戻すと、小さな四角の中でティナが真っ赤になっていた。

『僕の指だと思って触ってみて』
『ん、ん……っあ…!』
『ティナ、かわいい』
『やぁ、たまくん、たまくん……っ』
 指示して、自分の手で服の上から触ってもらう。画面の外でそろりと秘部に手が伸びたのがわかり、見えないことでかえって妄想を刺激された。
 画面の向こうで恥じらい僕の名前を呼びながら胸をいじる彼女を見ていると、どんなに辛くても耐えられると思ったものだ。

『ティナ……みせて。ダメ?』
『…………っ』
 モーグリ柄のパジャマを少しめくって見えた、ピンク色の乳首はぷるぷる震えていた。
 あの時、そんなに気持ちよくなっていたなんて気がつかなかった。理由は決まっている、画面に射精しないように僕自身が必死だったからだ。


 目の前のティナに意識を戻す。
「……教えてくれたっていいのに」
「ん、ん…っ、その時はよくわからなくて…たまくんに見られてるって思うと、気持ちよくて」
「それであとからやってみたと」
 話を続けながら、両手で胸をこね人差し指で左右の乳首を転がす。刺激を受け続けたそれは赤くつんと尖った。
「いくって言ったの聞こえたよ。何回もしたんだよね」
「え…!? うそ、私…我慢して……あっ」
「ほらやっぱり。なんで隠すの」
「だって恥ずかしいわ…!」
「もう一回、ちゃんと聞かせてもらうから」
 期待にティナの瞳が潤み、胸は震えて誘う。望みどおりできる限りいやらしく舌を這わせる。ティナが身体を震わせるたび、たがいに吸い付くように密着した下半身がぬち、と音を立てた。
「はぁ、ああっ、や、だめ…またいっちゃう、あん、だめぇ、きもちいぃの……あ、あ、いく、ぃくぅ、ひあぁ!」
「っ…エロすぎない……?」
 口を離してきゅ、とつねると高く声が上がり、下品な呟きはかき消された。
「……?」
 快感に耐えながら涙目で問うティナに、いやなんでも、と返す。
 それにしても。
 高い体温、良すぎる感度。
 ………排卵日、とか。

 だからってどうするわけでもない。挿れると決まったわけじゃないし避妊具なしなどもっての外だ。むしろ万が一が起こらないよう注意を払わねばならない。なのに、腰が熱い。痛いくらいに膨張している。ティナがもう一度いったら勝手に射精てしまうかもしれない。

「たまくん、……挿れて…わたし……」
「………!!」
 飛びつきたいほど嬉しい、が――もっと、…もっと早く言ってほしかった。それならそうと早めに切り上げて二人でうんと楽しめたはず。考えても仕方のないことだった。

「そうしたいけどティナ、今日は」
「ん、っ…うん、でも…っ、わたし、これが…あなたのが入ったら、どんなに気持ちいいのかなって、ずっと、考えて……」
 懇願する瞳を見ていると、たまらなくなる。ただでさえ僕のものはさっきからずっとティナの柔らかな部分にくにくにと愛撫され続けている。今この時もだ。正直頭が変になりそうだった。
 ティナの身体で隠れているが、挿れさせてくれなきゃ恨むというくらい腫れ上がって見上げているのが容易に想像できる。彼女の言葉に甘えろ、何もつけずに突き入れろ、そうすれば彼女は……。本能がそそのかす。心臓がどんどんと胸を叩く。

「……ティナ」
 とろりとあふれる透明な液を陰核に塗りつけ、浅く指を入れてかき混ぜる。内側の壁に擦り付ける。
「ひ、い…や、いや! たまくん、あ、あ…!」
 ティナがすすり泣き、名前を呼ぶたびにそこはきゅんと指を食い締める。
「僕はいいから…ん……っあ…」
 ティナが勃起の収まらないものを撫で上げる。だめ、だめだ。

「……次は、しようよ」
 荒い息でささやくと、まだ達しているティナはゆっくりと頭を振る。色付いて震える乳首もとろけてる中も、まだ足りないと僕を誘っている。甘い匂いが濃くなり流されそうになる。

「いや…! 今したいの…っ、だめ…? おねがい……」
「初めてはさ、時間をかけてしたかったんだよ。今日みたいな…こんな日じゃなくて。……止まらなくなりそうなんだよね、今したら」
「いいの……もう、いいの」
「明日も朝早いよね? 困るのはティナでしょ」
「あなただって」
「僕は大丈夫だからさ、お風呂行かない? 髪洗ってあげる。そしたら帰って早く寝られるでしょ」
「いらない…っ!」

 ティナの小さな叫びが反響する。静まり返った室内に、雨音が地鳴りのように響く。
 今すぐ帰ったとしても、ティナが眠りにつくのは日付が変わる頃だろう。
 数時間かけて帰り風呂に入ってお弁当を下ごしらえし、職場で禁止のマニキュアを落として、それからやっとだ。朝一でレンタカーだって返しに行かなきゃならない。お洒落して遠くから来てくれた彼女。僕のために……、考えるだけで胸がぎゅっと締めつけられる。

 ティナには僕との付き合いで、こういう無理をさせたくなかった。日常の綻びは少しずつ関係にひびを入れていくからだ。
 今日の話で早起きは慣れたなんて言っていたが、彼女が昔から朝が苦手なのを知っている。保育士として働き始めた頃は目覚まし替わりにメールして励ましていたし、それは今も習慣として残っている。もしかしたら寝坊してお昼はコンビニで済ますかもしれない。

 動かない僕に耐えかねたように、ティナがねだる。
「たまくん、っ」
 とにかく、これ以上遅くなったら明日ティナは眠い目をこすりながら仕事に行くのだ。
 だが彼女はそれでもいいとおねだりしてくる。普段は自慰すら知らないような澄ました顔して……誰も知らないだろう、こんな彼女。

「…あのさあ、いつまでも年下だと思ってたら痛い目みるよ」
 もしまた入らなかったら、我慢できないかもしれない。痛みに泣くティナを尻目に自分だけ快感を得ようというのか。
 それは、それだけはダメだと、頭に声が鳴り響く。

「………しょうがないな。今日はほんとに入れてみるだけだから。次まで覚えててよね」
「うん! ……なにを?」
 それには答えず折り曲げた両膝を横に倒す。
 潤みきったそこが丸見えになる。押し当てて擦りつけたい欲望を制して枕元のローションの包装に手を伸ばす。びり、と破って陰茎に垂らす。

「どうして横向きなの……?」
「それはね、こうするため」
 指を増やして挿し入れ、壁をぐいと押す。彼女のいいところは指が覚えている。
「きゃ、う……っ!」
 ほぼ同時に陰茎を、そのすぐそば、閉じた太ももの間に挿し込む。
 ぐちゅ、と音を立てぬるついた肉棒を抵抗なく白い太ももが飲み込んでいく。
「っく、あ……っ」

 ティナは横倒しにされた身体をよじって顔をこちらに向ける。
「ん……っや、あっ、ちがう…!」
「これは、初めてだよね」
 彼女の身体を使うことに迷いがあったからだろう、今まで素股という発想も出てこなかった。今日は太ももを露出する服だったからだろうか。本能は単純だ。

 腰を動かすと粘膜と柔らかな肌が擦れ、にちゅにちゅと音が立つ。
「いつもティナが気持ちよくしてくれるからさ、機会がなか……っう、柔らかい…」
「ひゃっ……! そこじゃ、な……んっ」
 指を二本に増やす。円筒を描いて広げるように狭く柔い襞を均す。
「覚えてて…」
「や、やっ、たまく…やめ、たまくんがいいのっ、あ…!」
「そう? ティナのここ喜んでるよ。ほら、ぐちゅぐちゅ」
「あ、あっ、…やぁっ、あ、あぁ! ふあぁ!」
「可愛い………僕だってほんとは…っ」

 聞こえていなくて都合がよかった。甘い声を上げ全身で僕を欲しがっている姿を見たら、与えてやりたくもなる。与えて、あわよくば。
 ティナの膝を押さえ、ぬぷぬぷと太ももの肉を抉る。指を動かすと膣が喜んで吸いつき、太ももに力が入って陰茎を締めつける。その連動と、生身の皮膚との摩擦に夢中になる。指より熱いものがほしいとねだるように襞がぎゅうぎゅう締めつけ、それを性器に受けているように脳が錯覚する。

「あっ、あ…これ、ほんとにしてるみたい……ん、うぅ、ティナ……っ」
 今日も僕の自制心はよく働いた。
 できないことに慣れているとはいえ、したくてたまらないはずなのに。奇妙にもまるで脳に枷でもかかっているみたいに我慢が利く。そして安堵している。
 怖いのか? ティナの望みをはねつけてまで我慢することなのか? わからない。考えたくない。ルーネスに言われた通り、僕はどこかおかしいのかもしれない。食いしばった唇が痛い。

 ティナが膝から下をぱたぱたと動かし、僕の腰を蹴る。たまくんのばか、うそつき、あん……罵りながら善がっている。いつものように耳元で名前を呼んでほしい。
「ん…っ、それ、振動で気持ちいいよ」
「もう……っ」
 今度は足首を交差して太ももに力を込めてくる。ただ笑ってみせ、僕を悦ばせるだけだと示すとティナは少し唇をとがらせて眉を下げた。
 その唇を見てキスできない体勢を選んだ自分を恨めしく思う。いくときは大体キスしていたから、何となく物足りない。
 ティナも同じ思いだったのか、ゆっくりと半身を起こして首を伸ばしてくる。一点に体重のかかったベッドがぎし、と鳴る。柔らかな唇に吸い付かれると太ももを犯しているものが熱くなった。

「ん…う……ティナ」
 唇を離すと、ティナの唇に自分の血がついている。それをただ眺めながら性器を脚の付け根に近づけ、擦る。陰核を狙って擦り上げる。ぷっくりと膨らんで顔をのぞかせているであろうピンクの肉芽が、血管の浮いた肉の棒になぶられしこるのを感じてさらに硬くなる。
 中のざらついた壁を中指でぐりぐりと押す。かと思うと一気に突き入れる。引き抜く。挿入できたらするつもりの動きを、ティナは気に入ったようだった。
「や、やっ…あっ、っあ、あ、そこ、だめ、だめぇ、あぁあっ……!」
「…っ、く、う…」
 ティナは悶え、指と陰茎をきゅううと締め付けて達する。つられて僕も太ももの間に吐き出す。

「………は、…」
 身体を横たえて余韻に震えているティナを見下ろす。かわいい、と口が勝手に動く。
「……ティナ、お風呂いこうか。連れてってあげる」
 背中を屈めて彼女の耳を舐めながら言うと、ティナがほろりと何粒目かの涙をこぼす。
「……きらい」
 乾燥し切った唇がまたぴしりと割れ、血の味が舌ににじむ。彼女に覆い被さり、太ももの間のものをぬるぬると余韻を味わいながら抜く。気持ちいい。痛い。

「指圧シャンプーしてあげるから。僕上手いんだ」
「…………行く……」
 ティナの濡れた瞳がこちらを向く。射精しながら見るティナの涙ってどうしてこんなに最高なんだろう。急速にぼやけ始める頭で考え、涙を唇で吸う。
 口を離すと頰が血に点々と染まっている。耳にも唇にも移っている。赤いと思い込んでいたそれは、照明の下で紫に滲んだ。

2022.1.11