一日千秋のすすめ

 待つ時間は案外嫌いじゃない。
 よく晴れた十一月の週末、ティナと旅行に来ている。たっぷり観光して夕方着いた温泉旅館は、部屋数が少なく静かな雰囲気で、人の多い場所が苦手な彼女も気に入ったようだった。

 浴場前のベンチで休んでいると、ティナが女湯から出てくる。僕を見つけて表情が明るくなり、ぱたぱたとスリッパで駆け寄ってきた。
「お待たせ、たまくん」
 どんな小さな約束でも、僕はティナとの待ち合わせに遅れたことはない。早く着く習慣がついた理由のひとつがこの瞬間だった。

「お風呂気持ちよかったね……!外にもあったの!」
「うん、熱めで良かった。こっちの露天風呂見てみたかったんだよね」
「浴衣も初めて。ちゃんと着れてるかな」
 見て、とティナはくるりと一回りして見せる。

「似合ってるよ」
 ちょっと見せて、と後ろに回り帯を確認する。
「緩いから少し締めるね」
「うん、お願い」
 ほんのりと頬を火照らせて、無防備に帯を預けられる。この特別感は彼氏という立場でしか味わえない。湯あがりの浴衣の衿元に目を奪われている間も彼女は話し続ける。

「ごはんも美味しかったね。お魚がね……梅のお酒も甘くて……!」
「うんうん、さっきも聞いたよ。ティナ、酔っ払っちゃったんじゃない?」
 そうかな?とティナは精一杯後ろを向こうと首を傾ける。しっとりと瞬く睫毛が目に入り、動きに合わせて湯上りの石鹸の香りが立ちのぼった。いつもより緩く結ったうなじから、指ですくって欲しそうに後れ毛が垂れている。

 帯をきゅっと結び直すと「ん、」と近くでなければ聞こえないくらいの声が上がり、思わず腰に手を伸ばそうとして……やめる。
「はい終わり、っと。これでもっと可愛いよ」
 前に回り、結び目を手前に持ってくる。至近距離でじっと見てくるティナから、むらっとしているのを悟られないよう目を逸らす。

「あのね……たまくん、ありがとう」
「別に。全然」
「あ、違うの。連れてきてくれてうれしいの」
「僕も久々にゆっくりできたから」
 今度は顔をちゃんと見て言うと、ティナは嬉しそうに笑った。

「うん、明日も楽しみね。元気かな、フリオニール」
「カニ食べさせてくれるってさ」
「わぁ……!」
 今回の旅行はティナの誕生祝いだ。なかなか休みが取れず一ヶ月越しになってしまったが、待ちに待った休暇だった。ドマ国で一泊し、翌日は船で海を渡って北のサラマンドへ。遠方に住む友人を訪ねていく目的も兼ねている。

「海の向こうはまた景色が違うのかしら」
「雪国だからね」
 今日は列車を降りると建物からすべてドマ風で、僕らは物珍しさできょろきょろし通しだった。温泉街で食べ歩きもした。とにかく、彼女には存分に楽しんでもらいたい。


 部屋に戻る途中、娯楽室と書かれたプレートの前でティナが立ち止まる。中を覗いてみると、レトロなスロット台にクレーンゲーム。コンパクトなゲーセンといった風だ。
 古いアーケードの筐体が数台置かれ、懐かしさからかゲームに熱中している宿泊客もみられた。空いた台に駆け寄り、ティナが瞳をきらきらさせて振り向く。
「着いた時から気になってたの……!ね、ね、たまくん」

 指差すのはスライム状のモンスターを連鎖させて消す対戦パズルゲームだ。
「ふうん。負けないからね」
「私だって!」
 コインは要らないらしい。さっそく二人して画面をのぞき込み、レバーをかちゃかちゃ動かす。
「あっ」
「ふふ」
「これからだよ!」
「あぁぁ……もう一回!」
 勝敗は五分五分だった。

「何か他のがやりたいな…」
 ティナの視線の先にはエアホッケーがある。
「昔クラウドとよく遊んだよね。よし!」
「今度こそ負けないわ。勝ったらどうする?」
「え?そうだな……」
「負けた方が言うこと聞くのは?」
「いいよ。僕が勝つからね」
「……何でもよ?」
 ティナが意味ありげに見るが、クレーンゲーム好きなだけとか可愛いお願いだろうと予想して軽く請けあう。

 数分後、僕は盤面に両手をついていた。
 袂をまくり、きゃっきゃとポニーテールを揺らしてはしゃぐ彼女をつい目で追って数点入れられてしまったのだ。
「やったぁ!」
「ちぇ、ティナのせいだよ」
「どうして?あっ、あれ見て、可愛い……!」
 結局クレーンゲームでドマのご当地モーグリを全種取るまで粘った。二人でぬいぐるみを抱え、さりげなく手をつないで部屋に戻る。


「わぁ……」
 部屋の中はとても『いい雰囲気』だった。
 窓から見下ろすほの白い月の光に満ち、外には庭園の紅葉した木々が頭を覗かせている。この地域特有の畳に布団がぴたりと並べて敷かれ、いかにも二人でごゆっくり、と言わんばかりだ。

 照明をつけるとティナは少し残念そうな顔をした。
「あ、はは…どうぞ!って感じだと引いちゃうよね……?とりあえず、明日の準備しようか」
「う、うん」

 お土産をしまうくらいで整理するほどでもない旅行鞄をかき回しながら、おやすみを言おうか迷う。ティナが気分じゃないなら我慢できるし、そうでなければ嬉しい。すごく。
 処女開発という名目がなくなってから思い知った。自分から誘うのは、想像以上に勇気がいる。

「あ、待って!お部屋のお風呂見てから」
「風呂なしの部屋でも良かったかもね……足冷えるから早く来なよ」
「うん。もう消していい?」
 膝下だけ布団に入ると、歯を磨いてきたティナが明かりを消す。月の光で照明がなくても十分顔が見える。彼女がそっと隣に寄り添う。

「今日は疲れた?」
「少し。でも、たまくんと初めての旅行だから楽しくて。目が冴えてるの」
 ティナがふくらはぎをくっつけてくる。いつもならもっとひんやりしている脚は、酒とお風呂とエアホッケーで温まったらしく、淡い熱が感じられた。梅酒を美味しそうに飲むティナ、可愛かったな……。
 思い出して口元を緩めながら、僕もつま先を彼女の足先に寄せる。ティナが脇に腕を差し込んで組み、ちらりと見上げてくる。くっつきたいんだとわかって胸がこそばゆい。

「そっか。また行こうよ、旅行中に次の予定って気が早いけど…サロニアとかどうかな」
「サロニア?あなたが留学したところね」
「うん。エリアに会いに行かない?」
「あ、行きたい……!」
 和やかに話しながら、布団の中では足先でじゃれあっている。背筋が浮ついてたまらなかった。すべすべの足に足の甲をくすぐられ、大げさに反応してごまかす。

「っほんと!?良かった、彼女、ティナともっと話したいって言ってたからさ。食べ物もおいしいからきっと気に入ると思う、よ……!?」
「えいっ……楽しみね!」
 指の間にティナの小さな親指がきゅ、と入り込み、ヘンな声を上げそうになる。今は布団を捲られたくない。

「……ティ、ティナ」
「くすぐったい?」
「前から思ってたんだけど」
「なに?」
「…いや、すごく楽しい……」
 ──前から思ってたけど、ティナってエッチな雰囲気に持っていくの上手くないか?自然とイチャイチャしていたぞ。生まれ持ったものなのだろうか。というか何だかんだ言ってティナにしたい雰囲気……とは限らないけど翻弄されるのが好きなんだ僕は。可愛すぎるよ。
 でも、されっぱなしは性に合わない。真面目な顔で彼女に向き合う。

「キスしていい?」
 ティナは微笑み、優しく瞬きして応える。
 月明かりの下の肌が真っ白で、月の人みたいだ。そんなことを考えながら唇を重ねる。ゆったりと気の済むまでキスし、お互いほうっと息を吐いて顔を離した。
「ん……」
「ここにもしていい?」

 後れ毛を指でくるくると巻きとり、首をなぞる。腰に腕を回し、後ろから抱きしめる。うなじの匂いを嗅いで何度もキスすると、ティナが小さく喘いだ。
「あ…ん……っあ…!たまくん…?」
「……いつもと違う?」
「興奮、してるの?」
「ん……そうだよ。僕ハアハアいってる?怖い?」
「いってる、けど怖くない。気持ちいい…」
「そ、そう」
 断言されてしまった。
 静かな部屋では余計に息が荒く聞こえるようだ。聞くのがティナだけなら別にいい。見られるのもティナなら、何だって。お尻に腰を擦りつける。
「たまくん……」
「ティナ、したい…」

 ティナが僕を見て、浴衣の上の羽織をふわりと脱ぐ。わたしも、と言い終えるのを今かと待って、その唇を塞いだ。
「ん…んっ…ふぁ、びっくりした…っん!」
「…は、…ティナ…ん…まだ……も少しだけ」
 驚いて顔を離そうとする彼女の唇を追いかけて吸い、食んだり舌で中央をつついて反応を待つ。ティナの小さな舌がちろちろと下唇を這い、差し込まれる。すかさず舌を絡める。

「…ん……んぅ…!」
 ティナの手を包んで握り、もう片方の腕は腰に回し抱きしめる。口内を舌で余さず舐め上げる。柔らかな舌を吸うと、ティナの身体が強く震えた。腰が熱い。

「あ……は、ぁ…、たまくん……」
 解放した半開きの唇から、喘ぎと名前が混ざって漏れる。赤い目尻に涙が滲んでいる。指の背でゆっくりと首筋を下り、鎖骨を撫でているとティナがもどかしそうに首をふった。
「早くしてほしい?」
 唇をかんで頷く彼女に笑ってみせ、衿元に手を差し込む。
 寒くないよう、浴衣の前を開きキャミソールだけを落として脱がせる。胸をあわせて抱きあう。柔らかく立った乳首が僕の体をなぞり、彼女も興奮していることを嬉しく思う。

 ティナの手が太腿をすべり、熱くなったものに触れる。
「あったかい」
 僕を見て微笑み、細い指がするすると陰茎を撫で亀頭の下をくすぐる。
「……っあ、もう……ティナ」
 キスしながら指の悪戯を楽しむ。
 下から揉み上げながら乳首をふにふにと擦ると、ティナの胸はより柔らかく熱くなる。腰が揺れ出したあたりで片方を吸うと声が一層高くなった。そのまま両胸を弄び続け、ティナの声が高く切なくなるのを待つ。

「ふ、ぁ…!あ、あ、ゃ…っ!」
 白い喉が仰け反る。舐めながら達する瞬間を捕えるのにも、ようやく慣れてきた。
「脚開いて…ここも欲しいよね?」
 震える太ももを撫で上げ、濡れてひくつくそこに指を差し入れる。くちゅくちゅとわざと音が立つように弄ると、胸で達してぷっくりと膨らんだクリトリスを見せつけるように腰を浮かせてくる。
「胸、気持ち良かったんだ」
 指で陰核を露出させ、大きくなってる、とささやく。恥ずかしがるのが見たくて、ほんの少し声に笑いを含める。
「…っ、ふ、ぅ…!やぁ……や…!」
 ティナが耳まで赤くして首を振り、胸がふるふると揺れた。早く挿れたいのをこらえ、中に指を入れたままピンクに充血したそこに舌を這わす。包皮を舌で剥き、唇で吸いつきながらしごくと中がぎゅうう、と狭まった。

「ん…、ん、ふ、ぁ…たまくんそれっ、あ!ん、っぁ、ひあぁ……!」
 達した後の可愛い顔を見るため体を起こすと、ティナがぎゅっと抱きついてくる。たまくん、あぅ、とか小さく聞こえてきて、こういう、気持ちよかったんだと思える仕草は無性にうれしい。

「……ん?」
 なんだか股間が熱い。
「はやく……しよ?」
「ティナっ、う…あっ!こら!」
「だめ?」
「ダメだよ!どういうつもり……っ」
 ぬちゅ、ぬちゅと僕のものを脚の間に挟んで腰を前後させている。襞の奥に先端が沈みかけ、あわてて身体を離す。
「う、わっ、危なかった…」
 気持ち良すぎてあやうく挿れてしまうところだった。

 付き合って五年。
 ティナの結婚への興味の薄さに、僕は次第に気付いていた。最初は僕が働き始めて日が浅いからそう振舞っているだけではないかと勘ぐった。
 だが彼女の親友が結婚し、二人で招待された式でも、ショウウィンドウに飾られたウェディングドレスに立ち止まっても、当事者になりたいというより、何だか……自分とは関係のない世界を眺めているようだった。

「…これ」
 ティナが若干、不服そうに避妊具を差し出す。彼女の部屋にあったものとは種類が違う。
「新しいのだ。買ったの?」
 ティナが照れて頷く。旅行のために避妊具を買う彼女を想像し、少し興奮しながら手にしたポーチを見る。一枚きりで他には入っていないように見えた。

「じゃあ使わせてもらうよ」
 明日も移動や観光で歩く。無理をさせてはいけない、と自身に言い聞かせる。おいで、と足を開き、そこへティナを座らせる。
 さっき自分で結んだ帯を解く。キスしながら座位で交わり、奥を優しく突き上げる。

「ん、ふぁ、あっ、あ……!」
「……ん、…っ」
 とろけて潤んだ瞳のティナと見つめあいながらする、この幸せを幸せの他になんと言っていいかわからない。形はどうあれ、彼女を幸せにしたいし、幸せになりたいのだ。できれば早く結婚できたらいいとは思うけど、この焦りのような気持ちの根源ははっきりとしなかった。

「あ、あっ……いっぱい、なの…」
「ティナ……っ」
 揺さぶりを早めると、熱い襞が陰茎を強く締め上げる。
「…ん、ぁ…うれし……」
「………っ」
 射精したあとも唇を重ねて余韻を惜しむ。明日はフリオニールに宿の世話になるから、こういうことはできない。久しぶりだったし、もう少し激しくしても良かったかな……。

「ん……」
 首に腕を回したままティナがささやく。
「ね、もうちょっとしたいな……」
 言葉の形をした吐息が耳の中をぞくぞくと伝い、脳を痺れさせる。今なら何でも言う事聞いてしまいそうだ。

「僕のが、あるから」
 枕元に手を伸ばそうとして、柔らかい手が遮った。その先の言葉にぼんやりした意識が一気に引き戻される。
「つけないでしたいの」
「…うぇっ!?どうしたの今日は…ダメだよ」
「だって……」
 彼女は何か言おうとして口を閉じ、じっと僕を見る。

「おねがい。何でも聞いてくれるんでしょ?」
 僕は大きく勘違いしていたらしい。「負けたら何でも」って、そういうことか。あんな軽いやり取りに託さなくても、ティナの頼みなら何だって……するわけにもいかない事だってある。
「言ってくれれば、いやそれでもダメだけどね!? だったらどうして……」

 ──ティナは結婚ってどう思う?
 何気なくを装って聞いたことがある。
 彼女は少し考え、私たちにはまだ早いと思う、と答えた。昔、唇にキスはまだ早いと言われたことを思い出してしまった。でも、ティナが僕との未来を考え始めているのだとしたら。

「今日は大丈夫なの」
「ううん……本当?…………わかった。約束は、約束だからね」

 避妊せずにするのは初めてだ。
 偉そうに「わかった」なんて言いはしたが、緊張と興奮が入り交じり、口から心臓が躍り出そうだった。本当に、いいのだろうか。
 もし彼女に万一のことがあれば、彼女の家族──クラウドはきっとティナも大人だからと干渉しない。主にライトニングだ──に八つ裂きにされるだけでは済まない。だがティナと結婚する弾みになるなら、体がバラバラになったって構わなかった。

「僕はいつでも責任とるつもりでいるから」
「……ん…」
 寝かせた彼女に口づけて安心させ、何もつけない性器をティナの脚の間で前後させる。これだけでもとろけそうに気持ちが良かった。
「挿れるね」
 深く息を吸ってティナの秘部にあてがい、ゆっくりと沈める。肌を隔てるものがないだけで、ぬちゅ、という音がいつもと違って聞こえる。耳に届く声もいつもより艶っぽい、ような気がする。
「……っは、ぁ……あぁ…っ」
「…どんな感じ?」
「ぬるぬるして…あったかくて気持ちいい、ぁ……」
「僕も同じ…ん、う、ぁ……っ、これ……」

 熱く弾力のある襞の一粒一粒が、張りつめた粘膜に隙間なく吸いつく。それが動く感覚に下半身が支配されていく。勝手に腰が動いてしまう。
「ん、あ、あっ……」
「ふぁ、…ん、やっ、たまくん…!」
 全部挿れたら歯止めが効かないかもしれない。
 半分ぐらいのところで抜き差しを繰り返す。
 ぷっくり膨らんだ襞に亀頭がぞろぞろと刺激され、奥まで入れたら勢いで射精してしまいそうだった。

「…う、うぅ、あ、あっ…気持ちいい…っ」
「あ、あん、やぁ…!はやく、奥……きて」
「ティナのここさ、っ…ぬちゅぬちゅですごくて」
「あ、あ…!そこばっかりだめ…っ!」
 ざらついた一点を擦り続けていると、小さく叫ぶと僕のものを締め上げた
「く、う…、…いっちゃったの……?」
「ん……っ」
 腰をひつくかせて恥ずかしそうに目を伏せる。僕からすると、ひくひく悦んで僕を締めつけてる場所は丸見えなんだけど、可愛いから言わないでおく。

 それにしたって、熱いし、きつい。
「……あんまりもたないかも…っ」
 息を詰めて喋る僕がおかしいのかティナはくすくす笑い、脚が腰に絡みつく。
「……! ティナ、ダメだって」
「いや…!全部ほしいの……だめ?」
 耳元で甘い悪魔のささやきが聞こえる。
 ごくりと息を飲んだ音、絶対ティナに聞こえた。言葉が出ないでいると脚に力が入り、ゆっくりと奥に飲み込まれていく。

「……っ、は…、ティナの、…望み通りに、するよ」
 多分すごく情けない顔をしている僕に、ティナはうれしい、ととろけるような笑みとキスをくれる。
「今日だけだからね!」
 怒った顔をしてみせても、負け惜しみは少しも効いていない。お返しに乱暴にキスして、ぐちゅぐちゅと抽挿しては二人して気持ち良さに悶えた。

「ん、っあ…ねえ、ティナ、このままもいいけど……」
「ふ、ぁ……なに…?」
「後ろ向いて……さっきみたいに」
 身体を起こし、窓に向かって膝をつかせる。
 浴衣を脱がせて白くなめらかな背中から腰のラインを指でなぞる。お尻を丸く撫で、腰を掴む。ごくゆっくりと挿れながら、耳元で告白する。

「……帯、直したとき…こうしたくて」
「あの時……?」
 奥まで入り、抱きしめて身体を密着させ、彼女の体重を預かる。
「ん、私も…お部屋に戻って早くしたいなって……思ってた」
「あんなに遊びたがってたのに?」
「それは別なの」
「…ティナらしいや」

 おかしくて息を吐くと、白く満ちた月が見下ろしている。ティナの顔をこちらに向け、指を絡めてキスしながら聞いてみる。
「月見ながらするの、どう?」
「ん、は、恥ずかしいかも…」
「じゃあもっと気持ちよくなれるね」

 さっきキスしたくてたまらなかった場所が、目の前にある。掴んで突きたかった腰はもう僕だけのものだ。
 うなじに唇をつけ、こつこつこつと何度も奥を叩く。そのたび熱い襞が悦び、奥へと吸い上げ締めつける。うれしい、ティナが僕の生身の身体で気持ちよくなってる、それに僕がほしいって!ほしいなら全部、全部あげたい。嬉しいのと気持ち良すぎるのとで涙が滲む。好き、好きだ……。

「ティナ……っあぁ、ティナ…ティナ、っゔぅ……!好きだ…ねえ、結婚してよ………っ」
「っあ、あ、ぁっ……!……え…?なに……?」
「……!!なんでもっ……!」
 つい日頃の本音が口に出てしまったが、身体は止まれない。ここに射精すよと何度も奥に押し当て擦りつけて示す。
 以前、図らずもプロポーズっぽい台詞(ずっと一緒にいたい、とかだったか)を言ってしまった時は、もう一緒にいるじゃないときょとんとしていた彼女だ。別の手を考えなければ。

「んっ、ぅ……じゃあさ…っ、一緒に……一緒に住まない?」
 彼女の両手首を取り、深く深く腰を打ちつける。月明かりの中に卑猥な音が響き、世界に他に誰もいないかのように錯覚する。

「っひぁ、ぁ……っ!ん……一緒に……?ぁ…!ふぁ!……そう、っね……ぁ!あ!やぁあ…!」
「言ったね…」
 こすり上げながら掻き回すと、ティナの背中が何度もびくんとしなる。いく、いく、と小さく漏れる声が可愛くて、もっといじめたくなってしまう。
「……ぁ、あ…っこれ、あ……っ気持ちいいの、だめ……!」
「だめ?」
 耳を吸ってささやくと、きゅううと締まり達したのがわかった。

「ふ、ぅ…!ううん、すき…すき……いっぱいして……っ」
 性器とお尻が押しつけられる。もっともっとと言うように、僕の腰まわりを艶めかしく円を描き吸いついて愛撫する。
「っ……だよね…!」
 誘われるまま奥を擦る。これから精子を注ぐ場所を、亀頭でこりこりと磨いては根元まで引き、一気に突く。どちゅどちゅと派手な音が響くが、構うもんか。

「ゔ、く、ぅ…!……ティナ、……っティナ…!」
「たまく…んっ、あ、あ、ひぁ…っ!きゃう、っ……あ…!あ……!」
 先に達したティナのお尻が跳ねて逃げようとする。腰に腕を回して固定し、うなじや肩をきつく吸う。すくい上げた熱い胸を手のひらにつかんで乳輪ごとひねりながら、同時に奥を捏ね続ける。

「逃げないで…ここにあげるから、全部」
「…!……っ!!や、やぁ…!たまく、ん…っふ、うぅ…きもちぃ…きもちぃいの…っ!へ、ぁ…!ぁ、あ…っ……!!」
 もう何度いったかわからないティナの腰は、奥まで貫かれながら理性を忘れ淫らに揺れている。恍惚に染まった横顔の、下まぶたには涙が溜まっている。唇から小さな舌先がのぞいている。月へと懸命に伸ばされる舌を見た瞬間、視界が白くなった。

「…………!く、ぅ……っ」
「あ……!あ、ぁ…!」
 肩に顔を埋め、掻き抱いて離れないよう腰を押しつける。胎の奥へ精を注ぎ込む。

 最後の一滴まで出し切るころには、お互い声もなかった。繋がったままゆっくりと布団に倒れ込み、快楽に浸る。熱い息を吐いているティナの内側は、搾り取るように痙攣し続けている。
「……あ、…たまく、私…まだ、っぁ……!」
「知ってる。気持ちいい…」
 ゆるゆると腰を動かして余韻を味わう。

「ん…、ん……」
「……また出ちゃいそう…」
「ふふ、いいよ……あ…っ」
「っ、ん……う…気持ちい……っあ、ぁ…」
 指を絡め、寝そべったままで、熱く溶けた膣内に射精する。何と堕落した行為だろう。最高に幸せだ。ティナのくったりとした身体に浴衣を引き寄せる。あともう一回したい、と思うと急に瞼が重くなる。意識がなくなる寸前、彼女の声がかすかに聞こえた気がした。







 目覚めると、天井はまだ薄暗かった。
 寝返りを打った肌触りで自分が浴衣を着ていることに気付く。ティナが着せてくれて、たぶん身体も拭いてくれたらしい。
 布団のど真ん中、境目もなにもない寝方だ。布団の中で彼女がうーんと身じろぎする。十分くらい経ったころ、ティナがもぞもぞと出てきておはよ、と笑む。ふにゃ、と音がしそうだ。二人で朝を迎えたことはあるが、格別の可愛さだった。

「もう少し寝られるよ。ティナありがと。浴場って朝も開いてたよね、後で行こうか」
「うん……」
 ティナが僕の胸に潜り込んで来る。
 猫を抱いてるみたいだと思いながら、ぬくぬくした眠気に沈みかけた時だった。浴衣のはだけた胸をさらりと撫でられる。ねぇ、とくぐもった声でティナが言った。

「……あなたが持って来たのは、使わないの?」
「へ?」
 ティナはもじもじして下を向いてしまう。なんだっけ……、彼女のつむじに顎を乗せて考えているとティナの頭が温みどころか熱くなっていく。僕が持ってきた……?

「あ」
 笑い出したくなるのを噛み殺し、ティナの身体を思いきり抱き締め髪に頬擦りする。ティナってば、僕がいくつ持ってきたか知らないんだ。
「たまくん……?顎ぐりぐりするのやめて、痛い…」
 ティナが不思議そうに頭を上げる。

「終わったらさ、部屋のお風呂入らない?一緒に入ればその分長くできるよ。ちょっとせまいけど」
「長くって……」
 更に顔を赤くした彼女の額に唇を押し当てる。身体を入れ替え、組み敷いて指を絡める。
「ティナはほんっと、気持ちいいこと大好きなんだから」
「……!いつも私がすごくえっちみたいに言うけど!あなたとがいいの…大好きなの……!」
「な…僕だって!!」
 大きな声が出てしまい、ティナが慌ててしー、と指を唇に当てる。その音が、胸の中に息を吹きかけられたようにくすぐったい。

 寝起きの柔らかい首筋に鼻を擦り寄せる。昨日からいいことばかりで僕の方が誕生日みたいだ。
「ん…ティナ、ちょっと待ってて」
 こんな日々が続いたら。ずっとこうやって、お湯をためる間好きなだけするみたいに過ごせたら。そうしたら彼女が結婚する気になるまで待つのだって、わけないはずだ。

2023.12.21