処女開発のすすめ

 ──入らなかった、のだ。
 自分はこんなに快感に弱かったっけ、とくらくらする頭で考える。
 夏のデートは楽しかった。帰省して久々にライトさんに会えたし海にも行けたし、その後ティナの部屋でいい雰囲気になって……。
 ティナは挿入を痛がった。大丈夫だと泣く彼女に、はいそうですかと非情に言えるわけがない。傷つけたくないのだ。付き合う時だって無理言って泣かせ心を開かせた。体まで無理やり開かせるなんてできないしもう泣かせたくない。徐々に慣らしていけばいいと宥めてその日は終わったのだが。
 
 問題はあれから二ヶ月ぶりの今現在進行形で、ティナの愛情深いスキンシップにリードされっぱなしってことだ。まずキスから始めたのがいけなかった。だってさ、ベッドで隣に座ったティナが抱きついてきて上目遣いで「こうしたかったの」なんて言うんだからキスするしかないだろう! 他に何をするというんだ。「たまくん…すき」だよ!? ああ! 僕も好きだ!!
 ティナの甘い匂いに包まれてキスしているだけで夢みたいだというのに、細い指が、誕生日プレゼントとして渡したばかりのペアリングをつけた指がまた、たまらない触り方をする。キスしながら頬を包まれ、髪をくしゃくしゃ撫でたり労わるように背中をさすられる。キスの合間ににこっと僕を見て笑い、ぎゅっと縋り付いてまたキスをねだる。ぞくぞくして天にも昇る気持ちだった。ずっと続けていたい……熱くてどうしようもない腰を意識しないように、ティナのふるえる睫毛やほのかに色づいた白い頬を凝視する。
 僕も負けじと彼女の髪や体を優しく撫でるが、与えられる快感や彼女の表情仕草一つに心が動いて身が入らない。頼むから腰を触らないでくれ……! しっかりしろ僕! 自分が昇天している場合じゃないだろう。
「ティナ、っ…ちょっと待って」
 やっとのことで言葉を絞り出し、彼女の手首を膝の上に下ろす。下ろされた手とはぁはぁ息を荒げている僕を見て、ティナは不安そうに口を開いた。
「どうしたの……? もしかして触られるのはいやだった?」
「いや全然! むしろうれしいんだけどね!?」
 君の手が気持ち良すぎて我慢できないなんて言えるわけがなかった。そんな僕の気持ちも知らず、ティナは眉を寄せて首をかしげる。普通ならこのままセックスになだれ込むのだろう。そりゃあここラブホテルだからね! 早く飛び込めと言わんばかりのふかふかなベッドが居心地悪い。ついでに言うと僕ら二人とも初めて入る。夏の時はティナの部屋だったからな……。
 そんなことはいい、とにかく僕には果たすべき使命があった。僕を受け入れられるよう、ティナを解してあげるという使命が。だが情けないことに未だ服すらも脱いでいないのだ。
(……って脱いでる!?)
 うだうだと考えている間にティナは僕の服に手をかけシャツのボタンを外し、自分もさっさと脱ぎ始めていた。薄いピンク色のブラからほどよい大きさの胸がぷるりとこぼれ、唾を飲み込む。ティナの頭が目の前に来たと思うと、耳元で脱いでねと声がした。
「うわっ」
 情緒がないと思う間もなく子供の着替えよろしくすぽんとアンダーシャツを脱がされる。目を瞬いていると下着に手がかかり、慌てて固辞する。ティナを見ると自分の最後の砦は残している。それってちょっとずるくないか?
「こうすればいいわ」
 ティナが抱き着いてきて、胸がふにっと僕の体で潰れる。腕を回し抱きしめ返すと肌が吸い付いた。もちもちと形を変える胸の感触に心奪われ、何度も抱きしめる。額に唇を落として胸の間に手を差し込み、やわやわと揉む。つんと立ちあがった胸の先を転がして、身悶えするティナの表情や身体の艶かしさを目で楽しみ観察する。うん、可愛い。キスするとびくんと身体が跳ねた。我慢、あるのみだ。
「あのね…、たまくんが気持ちいいと嬉しいの……っあ…や…我慢、しないで」
「そうは言っても……っ、……」
 さっきから柔らかいお腹に下着越し先走りでぬるついたものが擦れている。触れないように腰を離すとティナの優しい声が聞こえた。
「たまくん、」
「う……ティナ、」
「たくさん見たいの」
「…首にキスするの、好きだね」
「あなたがすきなの」
「……」
 ちゅ、ちゅと首筋に唇をつけながらそんなことを言われ、昨晩から頑丈に撚り合わせてきた糸は今にも引きちぎれそうだ。我慢しなかったら困るのは君なんだけど。
「ごめん、一度出す」
「…ん、うん……」
 申し訳なさそうにするティナに謝らなくていいと声をかけ、急ぎ後ろを向いてティッシュに精を吐き出す。すぐ出てしまうのが何とも気まずい。
「は、……っ」
「かけても、いいのに」
「ティナ!」
 諌めると、ティナはどうして? と言いたげに眉を寄せた。(前はたくさんかけたのに?)と視線で言われているような気がしてならない。まったく……。いいって言われたらしてみたくなるだろ!
 
「僕だってティナに気持ちよくなってほしいんだ。始めるよ」
 幾分かすっきりしたのでゆっくりとティナを押し倒す。さっきまでふわふわしていた体は強張り、緊張しているようだ。
「ティナ」
「ん……」
 小さく、柔らかくキスを重ね抱きしめる。首筋から反応するように、消えかけた香水と彼女の匂いが混ざり立ち上る。これを嗅ぐときどうしてか、ティナは僕が好きなのだと確認する。夏の、水着の彼女を思い出す。失敗はあったけれどあの時も胸への愛撫によく反応していた。弱いのかもしれない。耳殻を食みながら胸のふくらみをすくい上げ、揉む。
 指で押して柔らかな乳輪の感触を楽しみ、中心を優しく擦る。
「っ…! ふ、……」
「気持ちいい?」
「…ん、き、もちいぃ……」
 唇を重ねて尋ね、ティナの言葉の形を感じる。良かった、と唇を離して伝えると彼女が顔を赤くして言った。
「あなたって、意外とえっちなのね…」
「普通だよ」
 唇に舌を這わせ吸い、主張し始めた胸の先を捏ね回す。途端、弾かれたように腰をびくんと震わせ膝を擦り合わせ始める。
「や、くふ、ぅん……!」
 首筋にキスしながら胸へと降りる。桃色のそこはつんと立ち乳輪をぷっくりとさせて震え、唇での愛撫を今かと待っていた。
「ひゃう……! っあん、あ、あ、…っ」
 吸い付きながら右側を指でこねると予想通りの声が上がる。ここは、開発の余地がありそうだ。
「も、いいから、はやく……」
「そう?」
 まだ欲しそうだが、時間もないことだし次に進むことにする。お腹にキスしながら下へ降りていく。
「ちょっとまっ……ひゃっ!」
「早くって言ったのティナだけど」
 言いながら下着を足から抜き取り、湿り始めた秘部を撫でる。
「そ、だけど…あ…ん、ひっ、や、あぁ……!」
 包皮の上から陰核を唇に含み舐めただけでティナは達してしまった。早く見たい。閉じようとする膝を押さえて秘部から陰核まで舐め上げるとさらに高く悲鳴が上がる。気にせず慎ましい包皮を舌で丁寧に剥き、陰核を露わにする。話に聞く通り、かかる息にすら感じるほど敏感らしい。これからだというのに腰は小刻みに跳ね、頭の上から見ないで、と懇願する声がした。少し性急だったか。
「ここは嫌?」
「嫌じゃないけど、恥ずかしい…」
「この間もよく見せてもらった」
「そうだけど……っ!」
「可愛いよ。ティナの」
「っもう…! たまくん!」
 ひくひくと震える小さな肉豆を見ていると何だか嗜虐心が湧いてくる。充血してぷっくりと勃起しているそれをゆっくりと舐め回し、口に含むとまたすぐに達する。ああっ、ひっ、やぁ、こんなの……すすり泣く声が聞こえ、潤み切った桃色の花弁からとろりと蜜が垂れた。
「こんなの、何?」
「…………」
「痛かった?」
「ううん……すごく気持ち良くて、私…早くあなたとできるように、なりたい」
 顔が見たくなって身を起こし、脱力して身体を震わせる彼女を片手で抱きとめ座らせる。
 息も絶え絶えのティナの耳元で、さわるねと囁くとふるりと身を震わせた。
 名前を呼びながら濡れそぼる秘部を弄る。くちゅくちゅと漏れる音に唇を噛んで声を我慢している。うつむいて表情は窺い知れない。
「指入れるよ、ティナ」
「ん……は、ぁ…!」
 指を進めると、熱く潤った襞がきゅんと指を締め付け返事を返す。何て可愛い場所だろう。性器を捻じ込んで僕が好きか、欲しかったか問い詰めたい。髪から見え隠れする真紅に染まった耳をわざと音を立てて食み、舌を這わせ舐める。その度に指に吸い付いて悦ぶ膣内にたまらなくなり、硬くなったものを滑らかな太腿に擦り付ける。
「ふあ、あ、ん……っ、…や、っあう…!」
 弓なりに背を反らした拍子に、淫らに蕩けた顔が間接照明の下に晒される。喘ぐ唇にキスしながら指でもっと善いところを探す。ざらついた壁に指を押し当てるとぎゅうぎゅう締め上げられる。指でこんななら、挿れたらきっと彼女は痛いだろう。僕だって少し痛いかも。腕に縋っていたティナの手は胸から下へ移り、今は快感に震える指先で腹筋の窪みや臍をなぞっている。誇らしいようなくすぐったさに体は鍛えておくものだなと思う。僕のものはその下で、出番がないのに涎を垂らして待っている。
 反応が良かった耳を何度も甘噛みし、指で中を擦り上げる。身悶えし喘ぐティナの上気した頬を舐めて劣情を紛らわす。僕にしがみついて乱れるティナの肢体、汗でしっとりと光る胸とそのふるえる先……目が、チカチカする。
「ひ、あっ、あぅ…あなた、やっぱり…」
 ふと、ティナの指が太腿に押し付けた膨らみに触れる。何度も勃つから哀れになったんだろうか。ティナが僕の顔を覗き込み、ゆっくり瞬きして言った。
「ね、ちゅ…してもいい? …ここに…」
「…今日は、ダメ」
「じゃあ、さわるのは?」
「……いいよ」
 嬉しそうに笑んだ後、先走りの染み出した盛り上がりを指先でちょんちょんとくすぐる。
 勿体ぶって言ったけれども、ティナの言葉で彼女の舌や口内の熱さが性器の先に呼び起こされ、今すぐキスして舐めて諸々してもらいたいくらいだった。でも今はダメだ。夏の時は欲に負けて口でしてもらったから、今回ばかりは我慢しなければ。下着から取り出した性器を、ティナの細い指がやさしく宥めるように撫で回す。
「……あつい…」
「…っ、ん、……あっ…ティナ…」
 柔らかな四本の指と手のひらで包み、親指が雁首をきゅ、と握る。ゆっくり上下に扱き始めると十分勃起していたそれは更に硬さを増した。目元を染めてティナがこちらを見、引き寄せられるように唇を貪る。身体を寄せ合い互いの性器を愛撫し合う。挿入行為に劣らず淫らだと感じるのは、未経験だけが理由じゃないはずだ。
 舌を絡めていると唾液が垂れるがどうでもよかった。どこからか、どっちからかわからないがぐちゃぐちゃと卑猥な音がする。頭がおかしくなるほど気持ちがいい。ティナが……僕もだけど喘ぐから唇が外れてしまう。
「っあ、ん、…たまくん、きもちい…あ…!」
「……ッ!」
 感じると不規則になる手に揉むように擦り上げられ翻弄される。ティナは涙を零しながら喘いでいて、頬が真っ赤だ。汗で髪がおでこに張り付いている。ふうふう言っている彼女が可愛いらしくまた頬を舐める。本当に気持ちよさそうだ。膣内は二本に増やした指を悦ぶように締め付け、艶めかしく絡みついて奥に誘う。中とは逆に快感を逃そうと引く腰より先に深く指を挿れ、突き当りをやさしく刺激する。
「や、や…また、っあぁ……やあっ、あぁ…っ!」
「っ…いけたね、ティナだって素質あるよ」
 指を入れてから二度目の痙攣。この前は指入れても反応薄かった。解してみたのかな。……僕の事考えながら? それって、凄くいい。自分でも解してみてって言ったの僕だけど。聞いてみたい。早く、挿れたい。この熱い襞に、先っぽから根元まで柔らかく吸い付かれたらどれほど気持ちがいいだろう。ティナは、僕のでもこんなに気持ちよさそうにしてくれるだろうか。詮無いことを考えながら再び唇を塞ぎ、性器を包む手にもっとと擦り付ける。かき回して指の腹でぐりぐりと壁を押すとまたきつく締まり、熱い愛液で中が満たされる。
「ふあぁ…っ! ……っ! も、やぁん、あっ、あぁ…!」
「く、う、…っティナ、…っああっ」
 絶頂しながらもずちゅずちゅと健気に肉の棒を扱き上げる愛撫に限界まで性感が昂る。抱き合えないのがもどかしい、何度離れても唇をあわせずにはいられない。強く吸い付いた瞬間、全身を走り抜けた快楽に射精を促され陰茎が膨れる。そろそろ、時間切れだった。

2019.10.14